第12回 DIHAC 研究会 報告 12th DIHAC policy review meeting analysis report (Japanese)

2022.09.10

DIHAC policy review meeting 12th DIHAC policy review meeting analysis report (Japanese)

須田 拓実,有路 春香, 小柳祐華, ミョーニエン アング

Report in English 

2022年8月12日に第12回DIHAC研究会が開催されました。DIHAC研究会では、2020年より隔月ごとに国際的な研究者を招待し「DIHACポリシーレビューミーティング」を開催しています。各国で進行中の「健康な高齢化対策プロジェクト」からの経験や知見を共有し、研究者同士が意見交換できる場を設けています。

Presentation 1「介入の開発と加齢性サルコペニアの分子マーカーの調査:プロジェクト計画」についてイギリスのBradford大学博士課程1年生のMs. Hope Edwardsさんよりサルコペニアに関する報告がなされました。サルコペニアは、骨格筋の進行性喪失を特徴とする老人性筋疾患です。筋肉量が減少し、筋肉の機能や身体的性能が低下します。加齢はサルコペニアの主な危険因子です。加齢に関連する要因には、運動ニューロンと筋線維の喪失、アナボリック耐性、衛生細胞の機能低下、軽度の炎症―活性酸素種と活性酸素硝酸塩種、性腺機能低下男性のテストステロンの減少などが挙げられます。サルコペニアは徐々に身体機能が低下して、生活の質が下がり、そして早期死亡のリスクが高まります。しかし、現在のところ承認された薬物治療はありません。現在の治療には、身体トレーニングと十分な栄養療法に限られています。しかし、確立したリハビリテーション管理のプロトコールを記載している公表された文献はありません。そして、栄養療法に関しても最小限のガイダンスに限られています。運動介入について文献によると、身体トレーニング、マルチモーダルトレーニング、血流制限訓練、全身の振動トレーニングなどが挙げられます。すべての介入タイプは、筋肉量、強度、およびサルコペニアの高齢者における身体的パフォーマンスを上昇させることに寄与します。また、タンパク質摂取に関する文献によると、タンパク質を推奨される1日あたりの量( 0.8g/kg体重/日)を摂取することにより、筋肉量が向上し、成人における筋肉の強度及び機能を増加させることが示唆されています。硝酸塩の摂取については硝酸塩の摂取は、強度と筋肉の機能に関連することが示されています。

以下がプロジェクトの紹介となります。

研究の目的は若年者、中年者、高齢者の血液サンプルおよび筋生検に続く筋生体分子表現型を確立する事、健常な高齢者とサルコペニア患者の筋肉表現型を比較―潜在的なバイオマーカーを確立する事、運動、硝酸塩およびタンパク質の補充が、サルコペニア患者に及ぼす影響を調査すを行い、サルコペニアを治療するための効果的なエクササイズプロトコルを開発する事です。スクリーニングについてはサルコペニアの症状に関する問診はSARC – Fアンケートを用いています。筋肉量を利用した分類、歩行、サルコペニアを確認するためのスピード、グリップの強さなどを測定します。研究計画は参加者を14のグループにランダムに割り当て、ベースラインデータ収集(臨床評価、筋力評価、生体試料収集)し、参加者はそれぞれ割り当てられた1年間の介入を継続する。3、6、9、12ヶ月時のフォローアップを行い、データの収集(臨床評価、筋力評価、生物学的サンプルの収集)します。研究対象からの除外項目はなんらかのアレルギー、他の筋疾患、妊婦、授乳中としました。基本的な臨床データ収集/生理学的検査では身長、体重・血圧・ECG・スパイロメトリー・服薬歴・体組成物・QOLアンケート・喫煙状況/アルコール摂取量を測定しました。筋力と身体機能評価においてはアイソキネティックダイナモメータ・アイソメトリックダイナモメータ・3 Dフォースプレートを使用したバイオメカニクスおよび歩行分析・30秒間で座位から立位へ・SPPB・TUG・BIA解析・5 m歩行試験を行いました。生物学的試料として血液サンプル・筋生検(脂質・タンパク質・およびDNA分子の酸化レベルを確立するため)・ROS & RONs(酸素及び窒素レベルの測定)を測定しました。運動介入方法は12ヶ月間の運動介入・MMTアプローチ・週に3回、最大1時間・各参加者の能力に合わせてカスタマイズし、運動日記を記録をする事としました。栄養補給介入としてサプリメント(タンパク質または硝酸塩)・正常な食事と運動計画・食事記録する事としました。最終的な目標としてはベースライン評価の結果を整理し、3,6,9,12ヶ月のチェックポイントで筋力の改善があることを期待し、さらに酸化ダメージが低減し、末梢血で評価可能なサルコペニアのバイオマーカーを特定することで、筋肉生検と比較して、侵襲性の低い評価を提供する事、サルコペニアの信頼できるバイオマーカーを特定する事について報告が行われました。

Presentation 2では老テク研究会事務局長/ NPO ブロードバンドスクール協会コーディネータの近藤則子氏より、ICTを用いた高齢者のエンパワメントについての発表がありました。近藤氏は老テク研究会を1995年に立ち上げ、アメリカや韓国のボランティア活動からも学びを得て、現在の活動に至っております。そもそもなぜこの活動を続けているかというと、超高齢化社会は障害の多い社会でもあり、高齢者の孤立と孤独、そして特に自宅での不便な生活をより豊かなものへと変革するためにICT技術を活用しようと取り組まれております。そして、社会全体のデジタル化が進む中で、重要な政策である「デジタルギャップ」を解消する課題に対しての取り組みにもあたっております。老テク研究会では、パソコンや携帯電話を買ったはいいものの、使い方がわからないという高齢者に向けてサポートを行っております。

活動内容としては、ワードやエクセルを用いたイラスト、手芸のソフト、1997年から始まったデジタルひな祭りの取り組み、子供たちへプログラミングを教える地域のボランティア活動などです。2017年には当時82歳の方がスマホのゲームアプリ ”ひなだん”を発表して大きな話題になりました。 12月19日に英語版hinadanも公開されました。2021年9月現在、日本でのデジタル機器の利用率調査によると、60代では25%、70代以上になると57%がデジタル機器を使用しておらず、サポートが必要です。特に、スマートフォンは、個人が簡単にオンライン手順を実行できるツールであり、必要な人に十分なサポートを提供することが急務です。今年の6月にはスマートエイジングフォーラムが開催され、総務省も高齢者のデジタル格差解消への取り組みを示しております。公民館や図書館を起点としてデジタルアンバサダーのコミュニティで活動している高齢者は10万人を超えるなど、一つの社会現象にも発展しています。令和3年( 2 0 2 1 )より、全国の携帯電話ショップで、高齢者のデジタル活用に対する心配を解消するため、オンライン行政手続きなど、スマートフォンの活用方法の説明や相談を支援する「クラス」を開催しています(実施例:マイナンバーカードの申請方法/ マイナポータル、e – Tax、オンライン医療の利用方法/スマートフォンの基本操作/インターネットの利用方法等)令和3年から7年までの5年間の実施を想定して、市、町、村( 750市町村)に講師を派遣する予定です。また、デジタル庁は5月にデジタル推進委員会の募集開始イベントを開催し、地域密着型の「デジタル推進委員会委員」の募集を開始し、誰も置き去りにされない「デジタル社会」について提言しています。そんな中、NPO ブロードバンドスクール協会でも、高齢者が参加しやすいようなデジタルツールについて学ぶ場所を提供しようと企画しております。例えば、元々日本では自然災害が多く、全国に約30万ある自治会を中心にリアルなコミュニティの中での防災訓練が多く行われておりましたが、コロナの影響でそれらの多くが中止になっておりました。それに対して、同協会では家族や友人、自治会を対象として、Web上での防災訓練の取り組みをスタートさせました。このようにして、高齢者デジタル学習の新プロジェクトを立ち上げ、地域とインターネットコミュニティが連携して研修を行い、自然災害のための相互ヘルプシステムを作り上げています。

最後に、「私たちは、友情はデジタルテクノロジーを用いる強い動機であると考えています。手頃な価格のデバイス、ユーザーフレンドリーな情報機器、信頼性の高いストアが必要です。高齢者がデジタルを学び、近所の良い友達に会える場所が必要です。良いテキスト、楽しい学習方法、良い教師、簡単に勉強できる場所があります。私たちは、コミュニティを愛し、人々のために良いことをする機会を知っています。コーディネーターは、地域のシニアボランティア活動を成功させるための鍵であると考えています。ボランティアとは、友達がいない人と友達になることです。」との近藤氏の言葉を添えて、発表は終了となりました。

ディスカッションでは

・デバイスを使えない高齢者に対してはどのように参加を促すのかとの質問に対して公民館などの施設に足を運んでもらって、大きなスクリーンの前でWebミーティングに参加してもらうという方法があるとの回答がなされました。

・デジタルヘルスプロモーションに関する取り組みについてはどうかとの質問に対しては日本はとても遅れているので、お薬手帳のデジタル化を進めるのはどうかとの回答がなされました。

・セキュリティ対策はどのようにしているかとの質問に対してはサイバーセキュリティトレーニングはとても重要なので、行っている。信頼できる人を見つけて教えてもらうことが出来れば好ましいとの回答がなされました。

・インターネットを使う際の値段の問題はどうかとの質問に対しては駅、ホテル、コミュニティセンター、店などのフリーWi-Fiを活用する方法を伝えているとの回答がなされました。

・アプリケーションなどで高齢者が使いやすいものはどんなものがあるかとの質問に対しては簡単なゲーム、音楽、ビデオなど、シンプルで楽しいものをまずは使ってみる。例としてPC:ソリティア、携帯:パンケーキのパズルとの回答がなされ、多く質疑応答も大変盛り上がりました。特に、まずは小さなコミュニティから、近くの友人、信頼できる関係を築いていくことの重要性を強調されておりました。

Program

Socializing 

Myo Nyein Aung、MD, MSc,PhD is an Associate Professor at the Department of Global Health Research, Graduate School of Medicine, Juntendo University, Tokyo, Japan. He is also affiliated with the Advanced Research Institute for Health Sciences and the Faculty of International Liberal Arts, Juntendo University, Tokyo, Japan.

Opening speech 

Chair: Malcolm Field Ph.D. Professor, Faculty of Social Sciences, Kyorin University and Faculty of International Liberal Arts, Waseda University

Guest speaker

Presentation 1 Ms. Hope Edwards, a first-year Ph.D. student from the University of Bradford, UK

Presentation 2 Noriko Kondo, Director, NPO Broadband School Association

 

Report

・須田 拓実 MSc, doctoral student at Department of Global Health Research, Graduate School of Medicine, Juntendo University,

・有路 春香 MD, doctoral student at Department of Global Health Research, Graduate School of Medicine, Juntendo University, Physician, Kudaka Clinic, Okinawa

・小柳祐華 PhD, Lecturer, Tokyo Ariake University of Medical and Health Science. Visiting Assistant Professor, Juntendo University, Department of Global Health Research

・ミョーニエン アング  MD,MSc,PhD Associate Professor, Department of Global Health Research, Graduate School of Medicine, Advanced Research Institute for Health Sciences and Faculty of International Liberal Arts, Juntendo University, Tokyo, Japan.