第17回 DIHAC 研究会 報告 17th DIHAC cross-cultural exchange meeting analysis report (Japanese)

2023.09.18

17  回 DIHAC 研究会 報告

17th Digitally Inclusive, Healthy Ageing Communities (DIHAC) Study Cross-cultural Exchange Meeting report (Japanese)

日本における先端技術を活用した介護の運用と英国における高齢者世代のデジタル技術を利用する意欲に関する報告

後藤夕輝,小柳祐華,ミョーニエンアング  

Report in English 

2023年6月28日に第17回DIHAC研究会が開催されました。DIHAC研究会では、2020年より隔月ごとに国際的な研究者を招待し「DIHACポリシーレビューミーティング」を開催しています。各国で進行中の「健康な高齢化推進プロジェクト」からの経験や知見を共有し、研究者同士が意見交換できる場を設けています。

DIHAC研究研究代表者のミョーニエン アング准教授より、本研究会の参加者に挨拶がなされ、今回の研究会議長のMalcolm Field教授が紹介されました。

Opening Speech

Malcolm Field教授は、高齢化に関連する疾患、特に認知症が世界中の家族や制度に大きな課題を突き付けていることについて言及し、さらに課題克服へのテクノロジーの活用に対して高い関心を寄せている旨説明がなされました。

Figure 1:第17回DIHAC会議Zoom画面(司会:Malcolm Field教授,講演者,参加者)

Presentation 1

最初の発表者である山中裕太氏(社会福祉法人善光会 [1] の研究員・データアナリスト)は、スマート介護と先進テクノロジーを活用したケア運営について紹介しました。山中氏は、老人ホームの入居者の日々の介護にロボット技術を導入することで、入居者の生活の質を向上させ、介護者にとって効果的かつ効率的な職場を実現することを示しました。入居者の個室には、起き上がりや転倒を感知するセンサー、睡眠の質をモニタリングするセンサー、さらにはベッドには超音波尿量計が設置されています。介護者はこれらのセンサーを通じて、入居者の日常生活動作に合わせた最適なケアを提供することができます。各センサーからの通知はモバイル端末のスマート介護アプリに集約され、介護者は迅速に利用者の状態を把握できます。こうしたロボットと最先端テクノロジーを活用することで、善光会は最少の人員で質の高い介護を提供し、介護に関わる人的資源の減少という課題に対処しています。善光会の革新的な取り組みに感銘を受けた参加者たちは、サービスの費用対効果や、従来の慣習にテクノロジーを取り入れた後の介護スタッフの満足度について、さらに踏み込んだ議論を行いました。ロボット技術の利点に伴う、サービスの持続可能性と質に関わる課題、介護士のデジタルスキル向上の必要性、利用者データのプライバシー保護といった側面も考慮されるべきであることが議論されました。

Presentation 2

2つ目の発表は、英国Loughborough大学の博士研究員Ahmet Begd氏によって行われました。Begde氏は、高齢者が記憶力や日常生活動作(ADL:Activity of Daily Living)を向上させるためのテクノロジーを利用しようとする際の予測因子を検証することを目的として、最近行われた研究発表から得られた知見を発表しました。この研究は、英国で実施された大規模調査であるCognitive Function and Ageing Study IIのデータを用いて行われました。その結果、高齢者はADL向上のためのテクノロジーよりも、記憶力向上に役立つテクノロジーを好む傾向が示されました。また、高齢であること、女性であること、身体機能が低いこと、ノートパソコンやタブレットの使用が難しいことが、記憶力の向上や身体機能改善のためのテクノロジーを利用する意欲の低さの予測因子であることが明らかになりました。この研究結果は、高齢者のデジタル・アクセスや知識格差に対処する重要性を浮き彫りにしました。さらに、情報格差、デジタルインクルージョン、英国における高齢者のエンパワーメントについて、参加者同士で議論が行われました。人口の高齢化、介護労働力の減少、家族の負担増がもたらす課題に対峙する中で、第17回DIHAC研究会の見解は、介護施設における介護者の負担を軽減するだけでなく、高齢者の健康的な生活を長期にわたり支援するためにテクノロジーを導入する有益な役割を強調しました。デジタル・アクセス・ギャップを埋め、高齢者にデジタルスキル、知識、自信を育む政策や介入を実施することは、急速にデジタル化する社会における高齢者の包括的な参加を促進する可能性があることについて発表がなされました。

 

次回のDIHACミーティングは8月に開催される予定であり、健康的な高齢化の文脈で世界各国から知識や経験を学び、意見交換することを楽しみにしています。

 

References:

1.社会福祉法人 善光会.

2.Begde, A., et al., Exploring factors influencing willingness of older adults to use assistive technologies: evidence from the cognitive function and ageing study II. Information Communication & Society, 2023.

 

 

Report:

・後藤夕輝 MD,東京医科歯科大学 総合診療科非常勤講師,国際健康推進医学分野博士課程。日本医療政策機構プログラムスペシャリスト

・小柳祐華 PhD, 東京有明医療大学保健医療学部講師,順天堂大学大学院医学研究科グローバルヘルスリサーチ講座非常勤助教

・ミョーニエン アング MD,MSc,PhD 順天堂大学大学院医学研究科グローバルヘルスリサーチ講座准教授、健康総合科学先端研究機構准教授、国際教養学部准教授