第18回 DIHAC 研究会 報告 18th DIHAC cross-cultural exchange meeting analysis report (Japanese)

2023.10.09

18回 DIHAC 研究会 報告

18th Digitally Inclusive, Healthy Ageing Communities (DIHAC) Study Cross-cultural Exchange Meeting report (Japanese)

健康的な高齢化に向けて-超高齢社会における高齢者の保健・医療・福祉に従事する人材の育成に関する報告

ミヤットヤダナキョー,小柳祐華,ミョーニエンアング

Report in English 

2023年8月31日に第18回DIHAC研究会が開催されました。DIHAC研究会では、2020年より隔月ごとに国際的な研究者を招待し「DIHACポリシーレビューミーティング」を開催しています。各国で進行中の「健康な高齢化推進プロジェクト」からの経験や知見を共有し、研究者同士が意見交換できる場を設けています。

世界は、高齢者人口が絶対的,相対的に増加する人口動態の変化に直面しています。アジアも例外ではなく、急速な高齢化が進んでおり、2050年には4人に1人が60歳以上の高齢者になると推定されています。長寿は技術開発と医療の飛躍的進歩の賜物であるが、高齢化は社会的・経済的な影響をもたらします。18th DIHAC異文化交流会では、タイの高齢社会・超高齢社会への対策としての長期ケアにおける医療人材の重要性について報告と討議が行われました。

DIHAC研究研究代表者のミョーニエン アング准教授より、本研究会の参加者に挨拶がなされ、今回の研究会議長であるタイ王国大使館公使参事官のロムデイ・フィサラフォン博士が紹介されました。

Opening Speech

ロムデイ・フィサラフォン博士は冒頭で、高齢化社会が抱える課題について述べ、今こそ各機関が手を取り合い、世界的な問題に対する解決策を見出す時であると述べ、またDIHACのような異文化交流の場は、研究者、学者、シンクタンク、学生にとって、新たな協力のあり方を模索する良いプラットフォームとなると述べた。

Figure 1:第18回DIHAC会議Zoom画面(司会:ロムデイ・フィサラフォン博士,講演者,参加者)

Presentation 1

最初の発表者であるタイ王国、チュラロンコン大学経済学部医療経済センター(Center of Excellence for Health Economics)のシリペン・スパカンクンティ教授(PhD)よりタイの介護人材に必要なスキルに関する国際労働機関との最近のプロジェクトについて研究報告がなされた。本プロジェクトでは、現在および将来のスキル・ニーズに対応するための方法を評価し、タイの介護労働力におけるスキル・ギャップを特定した。混合法の研究デザインに従い、タイの地方と都市部における介護のスキルニーズとスキルギャップに関する量的・質的データを特定した。まず、タイにおける介護の研修は4つの省庁によって監督されている:教育省、保健省、社会開発省・人間の安全保障省、内務省である。保健省は介護者のための研修プログラムの企画・開発を担当し、内務省は介護者への毎月の支払いのための予算配分を担当し、社会開発省・人間の安全保障省と共に貧しい高齢者のための住宅改善に資金を提供し、教育省は地域の介護者を訓練している[1]。しかし、タイには高度な資格を持つ介護者がほとんどいないため、介護者のスキルプロファイルを開発する必要がある。スキルギャップの特定では、介護者は現在のトレンドに対応した中核的な介護ケアに加え、長期介護におけるデジタル技術の普及に備えたデジタル技術を身につける必要があることが示された。もう一つの課題は、職場での離職率の高さ、介護者へのインセンティブの低さ、キャリアパスが不明確であることから、介護のための人材が新たに浮上したアンメット・ニーズであることである。このプロジェクトで推奨される解決策は、介護人材の不足を優先課題として取り組み、外国人介護士を雇用するか、55歳の定年退職した民間労働者の新たなキャリアとして介護を創設し、同時に彼らの経済生産性を維持することを検討することである。タイはコミュニティボランティア主義でよく知られており、村の保健ボランティアは地域の第一線のケアを提供するよう訓練されている。訓練された有資格の地域保健ボランティアは、タイの環境におけるコニュニティベースの長期ケアのための資産であり、地域社会の高齢者のための健康増進活動を提供することによって、家族介護者の日常的な介護活動を助け、長期ケアの必要性を予防することができる。 地域医療ボランティアは地域社会における第一線のケア提供者であるが、家庭医は地域社会における加齢に関連した併存疾患や疾病のゲートキーパーである。従って、家庭医が老年医学を学び、三次医療センターの老年医学専門医の能力を向上させることも、高齢化社会のケアのために必要なことであると述べられた。

Presentation 2

2つ目の発表は、チェンマイ大学医学部家庭医療科のPeasak Lettrakarnnon准教授(医学博士)とKanokporn Pinyopronpanish准教授(医学博士)より、タイにおける老年医学教育について報告された。タイの老年医学者を増やすために、現在タイの2つの大学が老年医学の大学院フェローシップコースと認定コースを提供している。フェローシップ・トレーニングでは、内科医が老年医学を専門とし、加齢に伴う合併症の知識や病院でのリハビリテーション・トレーニングを身につけることができる。認定コースは、主に地域でサービスを提供する家庭医を対象としている。このコースは、地域の老年医学、高齢者の予防および促進サービスに重点を置いている。両コースとも、介護施設や地域での実地研修、老年医学に関する学術発表が含まれる。大学院老年医学コースでは、年間7人の老年医学専門医と12人の老年医学家庭医を輩出する予定である。これらのコースとは別に、タイの老年医学研究所(Institute of Geriatric Medicine)が主催する、老年外来ケアや高齢化社会に対応したシームレスな医療サービスに関する短期コースもある旨説明がなされた。

 

2つのプレゼンテーション後、参加者は介護における人的資源について様々な国の観点から議論し、異なる国や状況からの経験や解決策に関する意見交換を行った。その中では、職場において介護者を確保するためにどのようなインセンティブを与えるべきか、地域介護者のキャリアパスの可能性、介護者のスキル評価などが議論された。また、老年医学専門医や老年医学のスキルを持つかかりつけ医の役割と責任についても議論された。

Closing Speech

本会議は高齢化がもたらす問題の解決策を見出すための協力と意見交換の重要性を強調する、ロムデイ・フィサラフォン博士の結びの言葉で締めくくられた。長期介護のための人的資源は、高齢化時代に取り組むべき重要な課題である。また十分な訓練を受けた介護士は、高齢者介護の最前線に立つものであり、家族介護者にとっても有益である。一方、医師もまた、増加する加齢に関連した合併症に取り組み、シルバー層の健康をよりよく理解するために、老年医学のスキルを身につけるべきである。世界中の高齢者がいつでもどこでも包括的な質の高いケアとサポートを受けながら、安心して年を重ねることができる未来に向けて、既存のギャップを埋める革新的な政策とセクター間の協力やパートナーシップが不可欠であると述べた。

 

次回のDIHACミーティングは11月に開催される予定であり、健康的な高齢化の文脈で世界各国から知識や経験を学び、意見交換することを楽しみにしています。

 

References:

1.Human Resources for the Health and Long-term Care of Older Persons in Asia. 2020.

 

Report:

・ミヤット・ヤダナ・キョーMD,順天堂大学大学院医学研究科グローバルヘルスリサーチ講座博士課程2年生

・小柳祐華 PhD, 東京有明医療大学保健医療学部講師,順天堂大学大学院医学研究科グローバルヘルスリサーチ講座非常勤助教

ミョーニエン アング MD,MSc,PhD 順天堂大学大学院医学研究科グローバルヘルスリサーチ講座准教授、健康総合科学先端研究機構准教授、国際教養学部准教授