第13回 DIHAC 研究会 報告 13th DIHAC cross-cultural exchange meeting analysis report (Japanese)
第13回 DIHAC 研究会 報告 13th DIHAC cross-cultural exchange meeting report (Japanese)
有路 春香, 小柳祐華, ミョーニエン アング, 小川全夫
Report in Thai Report in English
2022年10月12日に第13回DIHAC研究会が開催されました。DIHAC研究会では、2020年より隔月ごとに国際的な研究者を招待し「DIHACポリシーレビューミーティング」を開催しています。各国で進行中の「健康な高齢化対策プロジェクト」からの経験や知見を共有し、研究者同士が意見交換できる場を設けています。
Opening speech
まず初めに、進行役の小川先生より、Age-friendly DXに関しての紹介がありました。IDIHの国際協力における取り組みでは、アクティブでヘルシーな高齢化におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)ということで、データガバナンス、デジタルインクルージョン、デザインによる相互運用性という3つの柱を掲げております。そして、DXを推進していく中で忘れてはいけないのが、人間性というポイントです。
人間性を置いてDXだけを進めてしまっても、サイボーグやロボットのような社会になってしまい、本当の豊かさや幸せを手に入れることはできません。そのような大事なメッセージを伝えてくださいました。
Presentation 1
Qiushi Feng准教授より、シンガポールにおける「生産的で成功とされる高齢化(Productive Aging and Successful Aging)」に関して発表されました。
シンガポールでは、1950年代にベビーブームがあり、その世代が高齢化に差し掛かっております。1980年代から高齢化社会に対する委員会の設置など、シンガポールの高齢化対策は早くからスタートしています。
そもそも成功とされる高齢化とは何か?様々な意見がありますが、ある研究では、全体的および 身体の健康と機能、認知機能と感情 幸福、社会的機能、人生への関与、人生の満足度、を成功した高齢化の指標として捉えています。では、結局「成功した高齢化」とは何なのか?Qiushi Feng准教授の研究では、シンガポールの高齢者にとって「成功した高齢化」がどのように認知されているのか、そして健康、社会性、経済的な因子がどのように影響しているのかを調査する研究となります。シンガポールは、地理的にも西洋と東洋の間にあり、多くの移民も受け入れています。東洋の文化と比較するためにも、シンガポールでの研究は非常に有益であると捉えられます。
研究の結果と考察では、シンガポールでは高齢化の成功について独自の理解があり、東洋と同様に自己充足感と社会的参加が重要なポイントでありながら、6割から7割の高齢者は、子どもによる介護が重要であるとの見解を示しています。およそ6割の高齢者が、「独立と依存」の一見相反する評価軸を定義していましたが、これらの矛盾もアジアの文化においては共存しうるものなのかもしれません。また、LEAPという概念に関しても言及がありました。生産的に高齢化するための生涯教育 (LEAP) プロダクティブ・エイジングは、シンガポールにおいて理論的に革新的であり、政策的に示唆的なものです。従来の老化のパラダイムとは異なる、健康でアクティブで成功した老化、生産的な老化などの研究 への関与を強調する方向性を表し、 晩年の生産活動への参加を強調します。これらの活動には、有償労働、介護、ボランティアなどが含まれます。 その中で、学習とスキル開発は不可欠な要素です。 高齢者が家族、コミュニティ、そして社会において貢献する役割を強調することにより、 プロダクティブ エイジングは他の高齢化モデルにみられるようなエゴ中心の視点を超えて、高齢者と社会が相互に利益をもたらすような関係性を強調します。
LEAPチームは、助成金を受けながら活動を行なっており、その他目的やデザインについても説明がありました。
Presentation 2
Karen Wee氏、Lions Befriendersというシンガポールのシニアを対象とした企業による、「高齢者の仮想交流から AI エコシステムまでのデジタル化について」に関する発表でした。
エコシステムケアのコンセプトとしては、生物学的、身体的、精神・感情的、社会的、スピリチュアルの全ての面から統合したケアを行うモデルです。それらを進める中で、I-OKやF.A.C.E. A.I.などのデジタルを活用し、個人のオーナーシップ、個人のエンパワメントを促進していこうという狙いです。Safe Pod EcosystemではF.A.C.E. A.I.を用いて対象者の感情を表情から読み取り、ケアプランニング、介入、フォローアップなどに活用しようという仕組みです。利点としては、感情をまずは可視化することで、ストレスフルな環境における感情のコントロールがよりスムーズになり、必要なケアを必要なところに行き届かせることで組織がより効率化するため、全体としてのコスト削減につながり、臨床家とのやりとりもよりスムーズで正確になるといったことが挙げられます。
また、動画では、I-OKというタブレットを用いたシステムに関する紹介があり、高齢者が「自分は元気です(I’m OK)」とワンプッシュで家族に伝えたり、バイタル記録を蓄積したり、その他にも高齢者が好む歌や動画などを視聴できるシステムになります。また、病院やクリニックにあるバイタル測定器などとも連携できるようになっており、それをクラウドにアップして、自身のタブレットに送ったりすることも可能です。
Presentation 3
コミュニティヘルス・ナースプラクティショナーのSeokmi Hong氏による「韓国におけるプライマリーヘルスケアポストの現状」に関する発表です。1977年からスタートした団体で、現在はメディカルデリバリーシステムといって、医療者を僻地や離島などに派遣するなど、遠隔医療などを実践しています。キーワードとしては、1)プライマリメディカルケア、 2)ヘルスプロモーション、 3)感染症コントロール、 4)訪問ヘルスケアの4つがあります。今年だけですでに900人もの患者のケアを行なっており、20の疾患の特定を行っています。
発表では、実際の村での活動について具体的にお話しがありました。1077人の村で、65歳以上の高齢者は440人(40.9%)、世帯数は499。全世帯を地図で把握し、医療活動を行なっております。高齢者に対する認知機能訓練活動や、筋力トレーニングのクラス、ウォーキングのクラスなどを実施し、ワクチンの実施や勉強会など感染症コントロールに関しても活動を行います。訪問診療では褥瘡や術後のケアなどを行なっており、必要があれば在宅医療を行なっている医師や看護師に繋ぐこともあります。
他にも、保険、病院、福祉施設、認知症予防センター、ナーシングホームなど、様々な部署と連携を取りながら、個人個人にとって必要なケアを提供しています。コロナ禍で村も大きなダメージがありながらも、活動を継続してこられたことについてお話しされておりました。
Program
Socializing
ミョーニエン アング、MD, MSc, PhD
順天堂大学大学院医学研究科グローバルヘルスリサーチ講座准教授、健康総合科学先端研究機構准教授、国際教養学部准教授。
DIHAC研究研究代表者。
Opening speech
Chair:
小川全夫(おがわたけお)
九州大学及び山口大学名誉教授、NPO法人アジアン・エイジングビジネスセンター理事長。アジ ア太平洋アクティブエイジング・コンソーシアム前会長。
Guest speaker
Presentation 1
Feng Qiushi:シンガポール国立大学准教授、社会学および人類学科の副部長、家族および人口研究センター (CFPR) の副部長、シンガポール人口協会の副会長。
タイトル 「シンガポールにおけるプロダクティブ・エイジングとサクセスフル・エイジング」
Presentation 2
Karen Wee :シンガポールライオンズ親善奉仕協会事務局長
タイトル「高齢者の仮想交流から AI エコシステムまでのデジタル化について」
Presentation 3
Seokmi Hong :韓国原州市コミュニティ ヘルス ナース プラクティショナー、コミュニティ ヘルス ディレクター、
タイトル「韓国におけるプライマリーヘルスケアポストの現状」
Report
・有路 春香 MD, doctoral student at Department of Global Health Research, Graduate School of Medicine, Juntendo University, Physician, Kudaka Clinic, Okinawa
・小柳祐華 PhD, Lecturer, Tokyo Ariake University of Medical and Health Science. Visiting Assistant Professor, Juntendo University, Department of Global Health Research
・ミョーニエン アング MD,MSc,PhD Associate Professor, Department of Global Health Research, Graduate School of Medicine, Advanced Research Institute for Health Sciences and Faculty of International Liberal Arts, Juntendo University, Tokyo, Japan.
・小川全夫 , Ph.D. Professor Emeritus, Kyushu University and Yamaguchi University, Japan will chair the meeting. He is Director of The Asian Aging Business Center, the voluntary organization and formerly he was the President of the Active Aging Consortium Asia Pacific (ACAP).