第11回 DIHAC 研究会 報告 11th DIHAC policy review meeting analysis report (Japanese)
DIHAC policy review meeting 11th DIHAC policy review meeting analysis report (Japanese)
有路 春香,小柳祐華, ミョーニエン アング
2022年6月16日に第11回DIHAC研究会が開催されました。DIHAC研究会では、2020年より隔月ごとに国際的な研究者を招待し「DIHACポリシーレビューミーティング」を開催しています。各国で進行中の「健康な高齢化対策プロジェクト」からの経験や知見を共有し、研究者同士が意見交換できる場を設けています。
まず初めに、東京大学小児科医の伊藤明子先生より会議のオープニング挨拶がありました。伊藤明子先生は、日本でも有数の翻訳家であり、以前オバマ大統領が来日された際や小泉元首相などの翻訳にも携わっていらっしゃいました。また、赤坂ファミリークリニックの代表理事や、NPOとの連携でキッチンワークショップなども開催されています。今回の会議では、「言語」の重要性を指摘されており、パブリックヘルスの分野においても、異なる言語、文化、価値をもつ人々を繋ぐコミュニケーションは最も重要である事についてお話頂きました。
Presentation 1では、大西 弘高先生より、コンピューター翻訳支援(CAT)ツールについてご紹介頂きました。英語のライティングを行う際に、様々な翻訳ツールがありますが、一般的にCAT翻訳ソフトはとても高価なものになります。今回紹介されていたMateCatというCATツールは、無料で使えるものになり、英語の翻訳を行う際にとても便利な翻訳ツールになります。※ここで述べられているコンピューター支援翻訳(CAT:Computer Assisted Translation)は、人間が行う翻訳を機械が支援するプロセスを指します。一方、機械翻訳(MT:Machine Translation)とは、人間が介入することなく、人工知能(AI)などを使って機械的に翻訳を行うプロセスのことです。利用の流れとしては、まず翻訳したい文章をCATツールに読み込ませると、CATツールが自動的に文章を抽出し、翻訳単位に分割をします。そして、CATツールの上で、原文と訳文がそれぞれ並んで表示されます。この時、1文に対して最低3つ以上の訳文が並び、マッチ度の高い順から表示されます。訳文が確定すると、CATツール上で原文と翻訳文同士がセットで保存され、以降の翻訳作業でも利用できるように蓄積されていきます。このような機能が、100以上の言語で使用することが出来る事についてお話頂きました。一般的なCATツールについての参考URL:https://www.memsource.com/ja/blog/what-are-cat-tools/
Presentation 2では南アフリカのケープタウン大学からKufre Okop先生より、市民アプローチによる生活習慣病の改善プロジェクトについての発表でした。まず問題点として、2019年には1790万人の人が心臓血管病で亡くなったと推定されており、2020年WHOの報告によると、これは世界中の全死亡の32%に当たります。(このうち85%が心筋梗塞、脳卒中)そして、80%以上の心血管疾患は、サブサハラアフリカとその他の低中所得国で発生していると言われています。世界的にも、高血圧を有する人口は6億5千万人から12億8千万人に増加したと言われており、サブサハラアフリカにおいて、糖尿病による死亡は2030年には3300万人に登るとされています。今回は参加型の介入方法である、「市民科学」についてご紹介頂きました。参加型の介入方法は、公衆衛生の介入を評価するにあたって重要な役割を持っています。市民科学(Citizen Science)とは幅広い概念であり、健康的なコミュニティを作るための、”市民による”体系化された研究方法です。この研究方法は市民の参加型学習や、コミュニティにコミットすることなどに重点を置いています。参加型アクションと共に、公衆衛生の研究の分野で広く使用されています 。このアプローチの根源には、科学は市民の悩みとニーズに応えなければならないという考え方や、起こっている現象の本質を理解するためには、市民の生活にコミットする必要があることからです。実際の市民アプローチのプロジェクトについて、紹介がありました。目的は、都市と地方において、コミュニティ参加型の市民アプローチによる心血管リスクの調査と、コミュニティ内における啓発活動、予防戦略の実行です。このプロジェクトは、ドイツ、エチオピア、ウガンダ、ルワンダ、マラウイ、南アフリカなどの国々がパートナーとして参加するグローバルなプロジェクトです。プロセスは下記の流れで進んでいきます。市民の健康に影響を及ぼしうるコミュニティを見つける、他の参加者たちと、発見したことについて議論をする、地域の改善策についての啓発活動を行う、より健康なコミュニティを創る。エチオピアでの事例では、タバコの吸い殻や、肥満になりやすい食生活など、潜在的な心疾患リスクとなりうるものを市民が写真で集め、問題点を明らかにし、改善策、戦略を立て、健康的なコミュニティへの改善を行っていきます。プロジェクトの活動として、市民が参加するワークショップなどを行い、知識のアップデートやディスカッションなどを行います。考察として、コミュニティ研究への市民の関与は、CVD予防に取り組むための包括的学習や、創造介入行動を促進することができる、根拠に基づいて市民と共同で創っていく参加型プロジェクトは、地域コミュニティの人々が、結果を重視する科学に参加することを促した、信頼できる情報を作り上げる過程において、研究者の支援を受けながら、市民自身により開発し、制定することができる、介入行動を評価するには、研究者チームと市民ステークホルダーの共同の努力が必要であるなどがあげられました。また課題としては市民ステークホルダーの参加においてコストがかかる、プロジェクトスタッフの能力開発に時間と技術が必要であること、市民科学者としてのコミュニティメンバーの募集とトレーニングの必要性、倫理問題、データ共有の問題による遅延、財源の確保、COVID-19による混乱などがあげられました。
Program
DIHAC研究代表者本日の研究会についての説明と紹介
Myo Nyein Aung 医学博士、MSc、PhD
順天堂大学大学院医学研究科グローバルヘルスリサーチ講座准教授
順天堂大学健康総合科学先端研究機構准教授
(5分)
Opening Speech
Chair:伊藤明子 医学博士、MPH
赤坂ファミリークリニック所長、
特定非営利活動法人ヘルシーチルドレン・ヘルシーライブス代表理事
東京大学大学院医学研究科公衆衛生・健康政策学科客員研究員
東京大学医学部附属病院小児科医
Aquarius Company Limited社長(通訳、翻訳サービス、会議調整)
(10 分)
Guest speaker
Presentation 1
大西 弘高 医学博士、MD、MHPE
東京大学大学院医学系研究科国際医学教育研究センター講師
「翻訳支援(CAT)を用いた論文の作成方法について」
Presentation 2
2.Dr.Kufre Okop 博士 MPH、PhD
南アフリカ、ケープタウン大学人文科学部社会科学研究センター研究員
プロジェクトコーディネーター、シニアリサーチフェロ
「市民アプローチによる生活習慣病の改善プロジェクト」
(20分)
・有路 春香 MD, doctoral student at Department of Global Health Research, Graduate School of Medicine, Juntendo University, Physician, Kudaka Clinic, Okinawa
・小柳祐華 PhD, Lecturer, Tokyo Ariake University of Medical and Health Science.Visiting Assistant Professor, Juntendo University, Department of Global Health Research
・ミョーニエン アング MD,MSc,PhD Associate Professor, Department of Global Health Research, Graduate School of Medicine, Advanced Research Institute for Health Sciences and Faculty of International Liberal Arts, Juntendo University, Tokyo, Japan.